ミャンマーで薬用植物栽培本格化へ

日本の漢方薬の原料となる生薬は、その多くを輸入に頼っている。なかでもカンゾウ(甘草)などは国内栽培が難しいこともあり、ほぼ100%が中国からの輸入でまかなわれていた。ところが近年、中国国内の需要拡大に加え、中国政府による輸出規制で価格が10倍近くに高騰、いまや希土類(レアアース)ならぬ希少植物と呼ばれるようになり、まさにレアアースをめぐる騒ぎと一緒なのは、知る人ぞ知る話だ。

 

 ◆日本財団が試験栽培

 

 こうした事態に最近、ようやく改善の兆しが見え始めた。中国政府が規制を緩めたというわけではない。新たな薬用植物の供給元として浮上してきたのがミャンマーだ。

 

 民主化と経済改革が進むミャンマーではこれまで、少数民族の生活向上支援のため、日本財団が漢方薬の材料となる薬用植物の試験栽培を進めてきた。財団に協力している新日本製薬(福岡市中央区)が、ミャンマーでの本格栽培に近く乗り出すという。

 

 130を超える民族で構成されるミャンマーでは、英国植民地時代の分割統治に端を発する少数民族武装勢力と中央政府との対立解消が、新政権にとって最重要課題のひとつ。少数民族武装勢力との和平交渉に加え、少数民族の生活向上をはかることで、国民融和を実現することができる。

 

ただ、少数民族の居住地域は山間部や乾燥地帯などで、ミャンマーの主要産業である稲作には適さず、せいぜい穫れるのはトウモロコシや豆類だ。しかし、これらは重量当たりの値段が安いため、大量に栽培し出荷しなければならない。さらに山間部と都市部を結ぶ道路の整備もなかなか進まず、収入増に結びつけるのは容易ではない。そこで、日本財団が目をつけたのが、漢方薬原料の生薬や香辛料の原料となる薬用植物の栽培だった。

 

 日本財団は、軍政時代から少数民族地域などで、置き薬事業や学校建設などを進めてきた。薬用植物の栽培もそうした支援のひとつだ。

 

 これまで、タイに隣接する南東部カレン州でショウガや黒コショウ、アロエ、センシンレン、ウコン、ビャクダンなど約20種類、約3000本の薬用植物の苗を植えた。今後はカレン州政府と共同で薬草園、研修所の整備も進める計画だ。

 

 ◆中国頼りから脱却も

 

 新日本製薬はこうした財団の取り組みを支えながら、試験栽培を重ねてきた。このほどミャンマーでも漢方薬原料に使える十分な成分を持ったカンゾウの栽培にめどがつき、ビジネスとして乗り出すという。すでに国際協力機構(JICA)の支援事業の認定を受けた調査を済ませており、今後、地元の製薬会社と合弁で、薬用植物の栽培指導と契約栽培による生産体制を確立、さらに収穫から生薬製剤の製造などを1カ所で行える施設建設を進め、日本への輸出も行う計画だ。

 

日本はミャンマーの民主化と経済改革を支援するため、鉄道や道路のインフラ整備、さらに経済特区建設などを進めてきた。農業についても、灌漑(かんがい)施設の整備や区画整備、農業機械化などへの支援を行っている。しかし、こうした支援で見落としがちなのが、作っても販売先の確保ができていないという問題だ。

 

 ミャンマーでは以前、北部シャン州でのケシ栽培を止めさせるため、日本の協力でソバ栽培の普及をはかったことがある。ただ、ソバを作っても販売先が確保できず、ソバ焼酎などに加工したものの、十分な収入は得られなかった。このため、多くの農家がソバの栽培を止め、中にはケシ栽培に戻ってしまった農家もあった。

 

 これに対し、カンゾウなどの場合、ミャンマーでの栽培が本格化すれば、中国産の半分の価格で日本に輸出できるという。さらに薬用植物なら日本だけでなくミャンマー国内にも十分な需要がある。新日本製薬開発事業室の長根寿陽室長は「ビジネスとして成り立ってこそ、継続的な支援ができる」と話す。

 

 ミャンマーでの薬用植物の栽培は少数民族支援だけでなく、日本も中国頼りからも脱却できる一石二鳥の取り組みといえそうだ。

 

Sankei Biz 6月19日