ミャンマー携帯市場、先行外資2社に挑むKDDI

KDDIがミャンマーの携帯電話市場に参入する。ミャンマー郵電公社(MPT)や住友商事と提携し年内にもサービスを開始する方針だ。東南アジア諸国の中では大規模といえる約6千万人の人口がありながら、携帯の普及率が1割強にとどまる未開拓の市場を狙う。KDDI陣営よりもわずかに早くミャンマーでの携帯サービスを始める強力な競合社が、中東の産油国カタール政府系の外資企業ウーレドゥーだ。同社は1月、外資として初めてミャンマー当局から携帯電話事業免許を取得した第1陣のうちの1社。通信インフラ整備や広告に巨額の資金を投入し、ミャンマー市場で高いシェアを獲得する構えだ。

 

「通信市場の発展を通じ、多くの幸せと笑顔をミャンマーの人々に届けたい」。7月16日、首都ネピドーで開いたMPTとの提携文書の調印式でKDDIの田島英彦取締役はにこやかに語った。KDDIはシンガポールに住商との共同出資会社を設立、年内にもサービスを始める。今後10年間でミャンマーの基地局整備などに約2千億円を投じる。

 

KDDIにとって今回の提携はミャンマー市場での捲土(けんど)重来でもある。ミャンマーでは昨年夏、携帯電話の普及率の向上を目指すテイン・セイン政権が携帯電話事業免許の国際入札を実施した。KDDI、英ボーダフォン、フランステレコムなど12陣営が応札。日本政府の後押しを受けたKDDIは最有力候補と見られていたが落選した。その後、競争力を強化したいMPTの提携要請を受け、ミャンマー上陸を果たした格好だ。

 

KDDIはこれまでにモンゴル、バングラデシュなど新興国の事業で実績を積んできたが、こうした国々に比べてもミャンマーの潜在市場の大きさは魅力的だと判断している。国際電気通信連合(ITU)の資料などによると、ミャンマーの携帯電話普及率は2012年時点で10%前後。いまでも東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国で最低の15%程度だが、テイン・セイン政権は16年までに80%以上に引き上げる計画だ。そうなれば、日本におけるKDDIの携帯加入者数に匹敵する約4千万人の新規利用者が生まれる。

 

KDDI陣営は「世界最高である日本の通信品質を届ける」(田島氏)と意気軒高だが、それには先行する有力外資2社と競わなければならない。昨年夏の入札で勝利し、1月に事業免許を得たカタール政府系のウーレドゥーと、ノルウェーのテレノールだ。

 

KDDIを含めた外資3社のなかで最も早く、8月中に携帯サービスを始めるとみられるウーレドゥーが強敵だ。カタール政府が過半を出資し経営陣に同国の王族が名を連ねる。00年代後半から、中東や東南アジアでの積極的なM&A(合併・買収)をテコに事業を広げてきた。13年時点でフィリピン、インドネシアを含む15カ国・地域で事業を展開。同年は06年に比べ利用者数が48倍の約9600万人、売上高は同8倍の約93億ドルに達した。急成長を可能にしたのは「石油や天然ガスから得た政府資金による支援」(商社)だという。

 

ウーレドゥーはこの春以降、ヤンゴン、マンダレーなどの主要都市で通信塔の建設を急ピッチで進めてきた。マンダレーの住民の1人は「見慣れない作業員が来たと思ったら半月くらいで鉄塔を建てた。すごいスピードだったよ」と驚く。ウーレドゥーがミャンマーに投じる資金はKDDI陣営の7倍を超える約150億ドルに達する見通し。現地法人ウーレドゥー・ミャンマーのロス・コーマック最高経営責任者(CEO)は「今後5年間でミャンマーの人口の97%を携帯電話のユーザーにする」と意気込む。ミャンマーでいま使われている通信技術のレベルはなお第2世代(2G)が主流だが、ウーレドゥー陣営は3G、LTEなど先進国並みの高速通信を一足飛びに導入する方針を示している。

 

最大都市ヤンゴンの街頭にはウーレドゥーの広告看板があふれる。「目抜き通りにテレノールの看板があったけど、それが1夜にしてウーレドゥーの看板に切り替わった。大金を使ったのではないか」と地元広告会社の担当者は推測する。ミャンマーで人気の高いスポーツであるサッカーのイベントにも協賛して、急速に知名度を高めている。

 

これに対し、KDDIはMPTの既存施設も活用することでインフラ整備にかかる時間を短縮する。ミャンマーの顧客に固定電話、インターネット接続などのサービスを携帯電話とセットで提案していく。「総合力で勝負する」(KDDI幹部)というわけだ。

 

日本の携帯電話会社は飽和状態の国内市場を脱し、海外に目を向けている。13年にはソフトバンクが米通信大手スプリントを買収した。一方、NTTドコモは14年4月、インドからの撤退を発表した。世界規模での携帯電話会社の競争は激しくなるばかり。KDDIがウーレドゥーなどを抑え、ミャンマー市場の開拓に成功すれば、新興国市場への進出で新たなモデルを提示できるかもしれない。

 

日本経済新聞 8月5日